2024年3月更新

「北杜市太陽光発電設備設置と自然環境の調和に関する条例」施行後の実状

 

 北杜市は、201973日に「北杜市太陽光発電設備設置と自然環境の調和に関する条例」(以下市条例)を公布し、2019101日施行しました。条例制定は、これまでの無秩序な設置に苦しむ多くの住民の悲願でした。事業者による近隣住民及び土地所有者への事業計画周知が義務化され、高さ制限等の許可基準が定められたことで、一定の秩序は保たれることとなりました。

しかし、北杜市は都市計画区域外で用途地域の指定がないために、住宅に隣接して太陽光発電設備が設置されることを避けることができない上に、許可基準とされた敷地境界からの離隔距離が1~2m以上と十分ではないために、事業者と住民とのトラブルが解消されたわけではありません。

 条例施行後43ヶ月の実状をデータ注1と事実注2に基づいて、以下の分析をいたしました。

 注1:北杜市条例に基づく届出・許可に関わる事項(2019101日~20231231日迄)を開示請求し、集計したもの

 注2:各事業に対して住民から寄せられた情報と現場の確認

 

1.設置全体件数への影響

 

 

  

規制が十分ではないとはいえ、条例制定による抑制効果が期待されたが、受付件数を見ると2019年度は再エネ特措法の運転開始期限が迫り、多くの事業者が設置を急いだことにより、逆に件数は増加した。2020年度は2018年度以前とほぼ同レベルであった。

2021年度以降の許可件数が著しく減少したのは、202110月に「山梨県太陽光発電施設の適切な設置及び維持管理に関する条例」(以下県条例)が施行され、市では単に協議を要する特定地域とされていた災害危険区域や地域森林計画民有林(市内山林のほとんど)が設置規制区域の対象とされたことによる影響が大きい。

また、2023年度は未だ許可申請に至っている事業者はない。41日より認定の失効制度(認定後4年経過した事業で、林地開発許可および農地転用許可が取得できておらず、一般送配電事業者との連系工事が行える状態にない認定は失効)が開始されたことにより2018年度以前の認定が多数失効したことによる影響も見られる。

 

 これまでに受付後まだ市への許可申請には至っていない69件は、既に取止め・撤退を表明しているか、県条例の設置規制区域への設置計画であり、さらにその多くがすでに失効期限を超過している。そのため、実状を正確に把握できる北杜市と失効を司る資源エネルギー庁が情報共有を図ることが確実に行われれば、今後の設置の可能性は低いと考えられる

 

2.発電事業者の所在地

        市内に設置する発電事業者は、その多くが北杜市外の所在でほぼ全国にわたっている。条例施行前は、全体の約80

    以上が市外事業者であり(資料:北杜市設置届出台帳)、条例施行後はさらに増加して91%に達した。野晒しの無人施

    設を20年間の長期にわたり管理責任を持つべき事業者の顔が見えず、火災やパネルの飛散・破損事故等の際に、素早く現

    場を確認できない遠方の事業者ばかりであることは、今後の設備の老朽化が進むにつれて、問題が表面化することが懸念

    される。

 

 

 

3.事業者の地域住民等および周辺住民への説明方法

 

    

    

    市条例により説明を事業者の義務としたこと、事業計画標識の設置により隣接住民や行政区長のみに留まらず、多くの

住民が計画を事前に知ることができるようになったことで、事業に対する意見や要望を述べる道が開かれたことは、一定

の評価に値する。しかし、「事業により影響を受ける住民等が一堂に会する説明会が望ましい」としながらも、条例に明

記されなかったその結果、説明が終了したとされる176件のうち説明会を開催したのは76件で全体の43%に過ぎず、全体

57%は個別訪問や郵送によって行われた。2020~22年度に郵送が増えたのは、新型コロナ感染拡大による影響があった

ことは否めないが、事実として住民の要望を無視して説明会を開催しなかった事例や事業地から離れた所に居住する行政

区長の判断で、行政区未加入の住民や別荘住民の要望には応ぜずに郵送で足りるとした事例も確認している。

 しかし、2023年度以降は、市条例で明文化はされていないが、説明会の実施報告書の提出及び説明会実施を証する写真

の提出を求めることで、事実上説明会の開催を求める運用が為されることとなった。

 

4.設置場所

 

  

 

  

 

2021年度前半まで設置の約7割を占めていた地域森林計画民有林への設置や土砂災害警戒区域等の災害危険区域への設置は、県条例施行(202110月)により設置規制区域となって以降、現在まで行われていない。県条例の規制効果であると考えられる。

 

5.終わりに

市条例施行によって、隣接住民に知らされずに突然太陽光発電設備が設置されることはなくなり、標識の設置、地域住民への事業計画の周知という段階を経て、条例に基き許可されることとなったことは大きな改善である。しかし、森林伐採や災害危険を増大させる設置は、山梨県条例の施行によって、ようやく厳しく制限されることになったことは否めず、山梨県内で最も設置が多く、問題が早期に顕在化したにもかかわらず、北杜市として貴重な自然環境、景観、住民の安全を守るために、自ら率先して規制をかけることには消極的であったことは、誠に残念である。

 

一方、再エネ特措法の改正により、市内設置件数の約96%を占める50kW未満の低圧設備は、原則自家消費もしくは営農型に限られるようになったこと、年々売電価格が低下したことにより、新規認定数は著しく減少した。一時的な金儲けのための事業者が参入しにくくなったことで、太陽光バブルと言われる現象が終息しつつあると言えよう。但し、新たに導入されたこれらの法規制のほとんどが、事前確認が厳格に行われず、事業者の自主性に任されていることから、いまだに法規制の効果が十分に発揮されていないことは、大きな課題である。