北杜市は山梨県の最北端に位置し、北は八ヶ岳中信高原国定公園、東に秩父多摩甲斐国立公園、西には南アルプス国立公園を有し、南には富士山を望むことができる日本有数の貴重な山岳景観に恵まれた地域です。市の約76%が森林に覆われ、高原地帯の冷涼な気候と美しい自然環境が人々を魅了してきました。
ところが、その貴重な自然環境が2014年頃から大きく変貌してきました。2012年に施行された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法)」による「固定価格買取制度」が開始された結果、次々と森林が伐採され、いたるところで森は剥き出しの更地となり、瞬く間にずらりと並ぶ太陽光パネルで埋め尽くされるという事態が続きました。その事業者のほとんどは市外で、単に広い敷地を安価で購入または借りることができることと、日照時間が比較的長く発電量が多いということだけで北杜市での事業を計画し、周囲の環境や景観への影響などは考えず、発電事業という重要な社会インフラを担う責任は希薄で、単に国によって20年間の利益を保障された都合の良い金融商品として事業を行っています。
私たちは化石燃料を原料としたエネルギーから再生可能エネルギーへのシフトという考え方には反対するものではありませんが、地球温暖化防止、生態系の保全のみならず、人類の生存に最も必要な酸素を供給し、二酸化炭素を吸収してくれる広大な森林資源を破壊して設置することは本末転倒であると考えています。昨今頻発する豪雨被害を考えても、傾斜地しかない高原の森林を伐採し、太陽光パネルを並べることは土砂災害の危険を増大し、住民の安全、災害防止の観点からも大きな危険を孕んでいます。また、太陽光パネルといえども発電所であることに変わりはなく、住宅に隣接して設置されれば、さまざまな安全性の問題があり、既に被害者が発生しています。
このような問題の原因は、立地規制や安全対策等の法整備もないまま「固定価格買取制度」だけが先行したことにあります。
私たちは、2015年より周辺住民の安全な暮らしと北杜市の自然環境と景観を損なうことのない秩序ある設置となるよう、国、山梨県、北杜市のそれぞれに対して必要な法整備を要望してまいりました。同時に、太陽光発電設備の急増と乱立による弊害は全国的にも顕著となり、経済産業省は、2017年4月のFIT法改正を含め、何度も法令の改正や運用の見直しを継続して行ってきました。
北杜市では2019年にようやく太陽光発電設備設置に特化した条例が制定され、それまでのように周辺住民の知らないうちに突然設置されることがなくなり、設置が許可制となりました。
また、2021年には山梨県が災害危険区域と森林を設置規制区域とする条例が施行され、現在までに森林への設置はされていません。
特に2023年4月に国が認定失効を開始したことにより、これまで権利として温存されてきた古い認定が大幅に減少しました。長い年月を要しましたが、一歩ずつ問題が改善されつつあることは、歓迎すべきことと捉えております。
しかし、一方で、北杜市条例で定められた敷地境界からの離隔距離は、住民の安全な生活と景観面では未だ十分とは言えません。また、再エネ特措法や電気事業法により定められたさまざまな規制はあるものの、その実行はあくまで事業者に任せられているものがほとんどで、法執行力には多くの課題が残されています。
設置が急増した2014・15年からそろそろ10年が経過し、杜撰な設置工事や、維持管理の不備などの影響が現れるのではないかと懸念されます。
【今後懸念される課題】
1.敷地境界からの離隔距離不足による隣接住民の生活環境への影響
2.設備の倒壊や飛散事故(構造強度不足、設備の劣化、維持管理の不備による)
3.モジュールや接続箱からの火災(設備の劣化、維持管理の不備、自然災害による)
4.土砂災害
5.買取期間終了後、設備の撤去と廃棄が確実に行われるのか
【北杜市条例の求められる改正事項】
敷地境界から設備までの離隔距離を5m以上とする。
【法執行力を確実にするために求められる施策】
1.電気事業法で定められている構造計算書の事前確認を行う。
2.防護柵と標識の設置を行っていない事業者への厳格な対応を確実に行う。
3.自家消費および営農型が確実に行われていない事業は、認定取り消しとする。
4.連系工事着工申込要件の事前確認を確実に行い、認定の失効洩れをなくす。